ご紹介する本
ギリシア神話
ジャンル: 人文・思想, 宗教
著者: 中村善也 中務哲郎
出版社: 大修館書店
発売日: 2020/6/23
本の長さ: 1039ページ
この本から学べるポイント
- 1:我々は水と土と火で作られた?
- 2:世界は支えられている?
- 3:理性や思慮で測る事のできない理性や思慮
神奈川県にお住いのペンネームたけしさん37歳男性(職業:その他)から2022年7月頃に読まれたギリシア神話を読まれたレビューになります。以下からKindleや中古で購入できるので興味がある方は是非見てみてください
ギリシア神話の内容
多くの神話の解説書がそうであるように、この本も、世界の成り立ち、神々の戦い、人間の誕生といった要素を取り扱いながら、想像力豊かに物語を解説していく本です。
どのような事が書かれているかと言うと、ギリシャ神話では、まず、最初にカオスや大地が生じて宇宙が始まり、オリュムポス十二神が表れて世界を治めた。そのような作り話的な要素の多い事がギリシャ神話の特徴であり、著者によると、
ギリシャ神話は、作り話と真実のふたつの面のいずれかを軽んじる事なく、論理を追求しながらも、作り話のもつ創造性を発揮した
とされています。このように、想像と説得力が見事に融合した神話がギリシャ神話であり、この本は、その要所を面白く解説している楽しい学びのある一冊となっています。
ギリシア神話の著者について
著者:中村善也 中務哲郎中村善也さんは、京都大学文学部を卒業した大学教授であり、西洋古典学者として活躍された先生です。
中務哲郎さんは、京都大学の名誉教授であり、こちらも西洋古典学の権威です。古代ギリシャの吟遊詩人ヘシオドスの全作品を訳した事で、読売文学賞を受賞された事もある大変優れた先生です。
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ギリシア神話本の要約
この本から学べるポイント
- 1:我々は水と土と火で作られた?
- 2:世界は支えられている?
- 3:理性や思慮で測る事のできない理性や思慮
本書では、ギリシャ神話を通して、古代ギリシャ人の様々な考え方を学ぶ事ができます。例えば、ギリシャ人の他界観念として、英雄達は、死後も実体を備えたままエリュシオンの野(極楽浄土。フランス語でシャンゼリゼ)で生活するとされていました。
私達も、過去の偉人や有名人を歴史の授業などで学ぶ事がありますが、これもある意味、彼らは、死後に英雄として讃えられて実体を備え続けているという事ができます。
これは、過去の英雄たちが極楽浄土に行ったという事ができる側面があり、そのような意味において、英雄は後世に讃えられる事によって、歴史という極楽浄土に行ったと解釈する事もできそうです。
しかし、そもそも、私達は、私達を知る人々や後世の子孫によって語り継がれていく存在であり、そのような意味において、私達一般人も、遠い未来まで歴史を生きていく存在であり、ある意味、極楽浄土を生きていく存在と言えるかもしれないと思いました。
我々は水と土と火で作られた?
神と人間をつなぐプロメテウスについても面白い考察がなされています。
天上で、古い神々と新しい世代の神々との権力闘争が一段落した頃、神と人間をつなぐ存在としてプロメテウスがいたと言います。
ギリシャ神話では、プロメテウスが水と土をこねて人間を作ったと言われています。確かに人間は、肉体と水分で出来ており、それを考えると、もっともらしい話かもしれません。
そして、人間に火を与えたのが、このプロメテウスです。私は、この火を与えたという表現は、物理的な火と、体内をめぐる熱量としての火のふたつの意味があるのではないかと思います。水と土で体を作って、そこに火を加えて動くようにする。そのように考えると、人間が動く生命体として活動を始めたのが、プロメテウスによるものであるという事がよく分かると思います。
もちろん、この人間というのは、人間の祖先という事になるのですが、それでも、水、土、火という体を構成する三元素から人間を作ったという話が分かりやすくなると思います。
このようにギリシャ神話は、そこから想像力を発揮していく上で、土台となる面白い知識や比喩を様々な所に配置しているよくできた神話であり、このような解釈もできるのではないか、と自分なりに考えていく楽しさがあると思いました。
世界は支えられている?
アトラスについての記述にも、面白い要素があります。
アトラスは世界の西の果てで天空を支える役目を課せられた巨神であり、ペルセウスにゴルゴンの首を見せつけられて石になってしまいましたが、後世これは西アフリカのアトラス山脈の事だと考えられ、それより西が大西洋と呼ばれるようになりました。
そもそも空には月やたくさんの星が浮かんでいますが、それらが落ちてくる事はありません。そこから、天空が何者かに支えられている、それは、大きな山脈であるアトラス山脈だ、という思想が生まれてくる所が面白い所だと思います。
普通、空というのは、月面旅行のように向かっていく所であり、落ちてくるものではありません。しかし、その空からは物が落ちてくるはずであり、誰かに支えられている、というのは、面白い捉え方だと思いました。
確かに、高い山は、空と地面をつなぐ支えのようでもあり、その山がかつての巨人であるという考え方には、面白い要素があると思います。
多少無理はあるにしても、自分の中に新たな視点が生まれたような気がして、学ぶところの多い部分でした。
理性や思慮で測る事のできない理性や思慮
不死なる神々の中でも最も美しく、四肢の力を奪う神、神といわず人といわず、胸の中なる理性も、賢い思慮をも失わせるような強大な力を持つエロス(愛)とが生じた。(神統記)
「愛」というものが、天地の始まりとほとんど同じくらい古く、理性や思慮ではどうにもならないほどの強い衝動を表すものである事が、ここでは語られています。
ここで述べられているエロスは、原初神であり、愛の神であると言えます。普通、愛というと、男女の仲を表すものとして考えられますが、これを孤立したものが結合する作用と考えるとどうでしょうか。
原子と原子が結合して分子になる、理屈と理論が結びついて論理になる。先ほど、胸の内なる、理性も思慮も、どうにもならないほどの強い衝動を表すものがエロスである、と述べましたが、実は、このように考えると、理性的な論理、感情的な思慮の結びつきも、エロスの作用として考える事ができます。
理性や思慮の概念を超えた強い衝動であるエロスも、その強い衝動ゆえに引かれ合う存在であり、孤立するものの結合を表しており、つまりそれは、理性や思慮のつながりである、という考えを導き出す事ができます。
このように、エロスの持つ融合性について考えてみると、エロスの持つ性質の面白さが分かるのではないか、と思いました。
ギリシア神話を読んでの感想やレビュー
ギリシャ神話は、本当に想像力に富んだ神話であり、そのひとつひとつをとってみても面白い要素がたくさんあります。
例えば、冥界に各人に割り当てられた長短さまざまな蝋燭があり、燃え尽きると地上の人も死ぬとする考え方などがあります。
個人的に、これは、植物に例える事もできるのではないか、と思いました。天国に各人に割り当てられた元気な木や細長い木、勇壮な木などがあり、それらは、伸び広がっていき、限界まで伸びると成長を止め、やがて実が生り、しばらく経つと枯れていきます。これが一人の人間の生きる姿ならば、天国は、大きな野原に大森林が広がる緑豊かな楽園のような場所なのかもしれません。
このように、ギリシャ神話は、想像性が新たな創造性を生み出すインスピレーションに富んだ物語であり、とてもよくできた神話体系だと思いました。
この雰囲気を楽しめる方には、豊かな世界が広がっているのではないか、と思います。
ギリシア神話がおすすめでない人
こんな人はおすすめしない
- 突拍子もない神話の世界が苦手な方
- 論理的ではない話が苦手な方
- 神々の存在に違和感を覚える方
- 世界を科学的に見る方が現実的だと思う方
- 哲学が苦手な方
基本的に、ゼウスをはじめとする神々が世界をつくり、人間をつくる、という理屈では考えられない記述で世界を描いているので、そんな事があるか、とそれを受け入れられない方には、楽しめないかも知れません。
しかし、読んでいて、こう考えると面白いよな、このような考え方も面白いな、と思える方だと、ギリシャ神話の想像的世界観に入っていけて、楽しめるのではないか、と思いました。
無理を無理として受け入れられる方には、楽しい創造的な世界が広がっていると思います。
ギリシア神話をおすすめしたい人
こんな人におすすめ
- 古代ギリシャ人の考えが知りたい方
- 神話的思想を知りたい方
- 神々が存在する世界について知りたい方
- ギリシャ哲学について知りたい方
- ギリシャ神話の概略について知りたい方
本書では、各所で哲学的な考え方が展開されていて、そのような考えが好きな方は、楽しめる一冊に仕上がっているのではないか、と思います。
例えば、哲学者ニーチェは、ギリシャ芸術の中に、アポロン的なものとディオニュソス的なものがある事を見い出しました。
狂的な陶酔によって生の根源に直に触れようとする衝動と、捉えがたく説きがたいものをも光明の元に出して明確な形を与えようとする本能を認め、それぞれをデュオニュソス的、アポロン的と名付けました。
このように、人間の衝動の根源を区別する試みには面白いものがあり、これを先ほどのエロスに当てはめて考えてみるとどうなるか、など、楽しめる要素はあると思います。このような記述が好きな方には面白いのではないか、と思いました。