人文・思想

【本要約】自己啓発をやめて哲学をはじめようの書評とポイント解説を総まとめ!

ご紹介する本

自己啓発をやめて哲学をはじめよう

ジャンル: 人文・思想

著者: 酒井穣

出版社: フォレスト出版

発売日: 2019/3/20

本の長さ: 176ページ

8

総合

7

読みやすさ

7

学び

10

面白さ

この本から学べるポイント

  • 1:どんなに社会的に持ち上げられていようとも、自己啓発、あるいは自己啓発的な考え方や書物は本質的には人生の役には立たないということ。
  • 2:人間は生物であり、生物である以上死から逃れることはできないのと同じように、人間は絶望から逃れることはできないということ。ちなみに哲学的な意味で絶望するのは、絶望できるのは人間だけである。
  • 3:哲学的な意味での絶望に対する回答は哲学である。真実は「自ら学び取らないものは等しく裸である」ことを示している。

埼玉県にお住いのペンネームギュスターヴさん32歳男性(職業:経営者・個人事業主(自営業))から2021年5月頃に読まれた自己啓発をやめて哲学をはじめようを読まれたレビューになります。

自己啓発をやめて哲学をはじめようの内容

自己啓発ビジネスの欺瞞と哲学の有用性について書いた本です。巷には自己啓発系の本が溢れており、書店にはそういった本が平積みされている一方、哲学の方はというと不人気です。書店では哲学の本はちんまりしたコーナーに追いやられ、立ち読みしている人さえ見かけることがありません。しかし、哲学は自己啓発のようにすんなり理解できはしないし、時に感情的にも納得行くようなものでないながらも、人生にとって有用で、人生を豊かにしてくれるものだと本書は説きます。また、哲学の基礎的な部分を解説しつつも、それをこれからの人生にどう生かすのか、これからの日本にどう生かすのかということについても書いています。

自己啓発をやめて哲学をはじめようの著者について

著者:酒井穣
"株式会社リクシス代表取締役副社長
特定非営利活動法人NPOカタリバ理事
過去には事業構想大学院大学特任教授や新潟薬科大学客員教授などを歴任
プロ野球選手会顧問"

自己啓発をやめて哲学をはじめよう本の要約

この本から学べるポイント

  • 1:どんなに社会的に持ち上げられていようとも、自己啓発、あるいは自己啓発的な考え方や書物は本質的には人生の役には立たないということ。
  • 2:人間は生物であり、生物である以上死から逃れることはできないのと同じように、人間は絶望から逃れることはできないということ。ちなみに哲学的な意味で絶望するのは、絶望できるのは人間だけである。
  • 3:哲学的な意味での絶望に対する回答は哲学である。真実は「自ら学び取らないものは等しく裸である」ことを示している。

"「自己啓発では成功は得られず、絶望から逃れることもできない。我々にできるのはわずかな真実と共に生きることである」
もちろん、自己啓発によって成功する人も0ではないでしょう。しかし、そこには科学的根拠はなく、またいかなる成功、栄華、権力なども永久不変のものではありません。
それはある種の絶望と見なすこともできるでしょう。哲人キルケゴールは、絶望とは「自分をコントロールしているという認識」からくるものだと説いています。また、彼は絶望を「死に至る病」と言い表しました。しかし、我々は学び、「知る」ことができます。そしてそれこそが哲学の大きな意味なのです。"

どんなに社会的に持ち上げられていようとも、自己啓発、あるいは自己啓発的な考え方や書物は本質的には人生の役には立たないということ。

自己啓発は本質的には「信じる」ことによって成り立っています。それは組織の団結を強化したり、組織構成員の不満をそらすのに上手く使うことができるかもしれません。あるいは疲れてストレスも溜まっている組織構成員にとって精神的麻酔になるかもしれません。しかし、「信じる」ことは真実に基づくものではありません。特にスピリチュアル系の言論においてはどうしようもなくひどいデマになっていることも多々あります。デマを基に人生や人間関係を構築しようとすればどうなるでしょう。それは、砂の上に立派で豪華な建物を建てようとするようなものです。端的に言えば、自己啓発コミュニティーとはデマによって現実から目をそらしたい人間たちのためのもので、彼らは元手0のデマに喜んでお金を支払ってくれるカモです。

人間は生物であり、生物である以上死から逃れることはできないのと同じように、人間は絶望から逃れることはできないということ。ちなみに哲学的な意味で絶望するのは、絶望できるのは人間だけである。

まず述べておかなければならないのが、一般的な意味での「絶望」と哲学的な意味での「絶望」は似て非なるものだということです。キルケゴールが「死に至る病である」と評した哲学的な意味での「絶望」は、「自分が自分を良い方向に向かってコントロールしている理性がある」という認識が正しいものではないという真実からくるものです。端的に言えば、我々は理性的に振る舞える知的生命体ではなく、かなりの部分において欲求の奴隷でしかないのです。もしこれが嘘だというのなら、例えばどうして世の中にはダイエットの広告があふれているのでしょう。欲求は理性によっては生み出せず、また理性は欲求に勝てないのです。

哲学的な意味での絶望に対する回答は哲学である。真実は「自ら学び取らないものは等しく裸である」ことを示している。

人間は欲求の奴隷である自分自身を変えることはできません。それをどうにかこうにかごまかして成功へと向かおうとしても、実際に成功するかどうかは確率論的な問題でしかありません。しかも成功は長続きするとは限らず、成功したがゆえに前の自分には到達し得なかったどん底に落ちることもあります。では、理性や努力といったものは儚い嘘のような存在でしかなく、人生には哲学的な絶望しかないのか。いいえ、人には哲学というものがあります。哲学によって「知る」ことで、我々は欲求の奴隷から欲求の奴隷である自分自身の観測者となれるのです。

自己啓発をやめて哲学をはじめようを読んでの感想やレビュー

自己啓発や自己責任論が蔓延する現代の日本にとって、薬のような本だと思います。もちろん、それらを乗り越えるためには何度も哲学的な「絶望」を味わうことになると思いますし、その体験は心地よいものではないと思います。その点、自己啓発とは真逆のものです。しかし、知ることによって絶望を乗り越え、その先にあるものを見れば哲学のさわりを知るだけでも、その価値は十二分にあると感じられるはずです。この本に限らず、哲学の本というものはある意味冷徹で厳しい、スパルタな部分もあるかとは思いますが、どうかそれに負けることなく頑張って読み進めてみてください。

自己啓発をやめて哲学をはじめようがおすすめでない人

こんな人はおすすめしない

  • 自己啓発にハマっている人
  • 宗教にハマっている人
  • 親の言うこと、価値観から脱却できていない人
  • 勉学についてネガティブなイメージを持っている人
  • 頭を使いたくない人

頭を使いたくない人、勉強なんて面倒臭いと思う人、自分の世界を崩されたくない人などにはおすすめできません。哲学はある意味冷酷で冷徹です。ありのままの真実を、そのまま我々に受け入れるように要求します。その準備がない人、その覚悟がない人にとって、これがどれだけ残酷であることか。幸いなのは哲学は逃げないということ、それから本質を追い求め続けるならいつかは哲学にたどり着くということです。その時が来たら、改めてまた哲学を勧めればいいのだと思います。

自己啓発をやめて哲学をはじめようをおすすめしたい人

こんな人におすすめ

  • 哲学を分かりやすく学びたい人
  • 哲学をかじったことはあるが何の役に立つのかいまいち分からない人
  • 自己啓発に疑問を覚え始めた人
  • 成功したはいいけれど人生が空虚に感じられる人
  • これからの日本のあり方を考えたい人

哲学の準備ができている人、哲学的に「知る」意欲がある人全般におすすめできます。特に哲学の初心者や哲学には興味があるけれど難しい本ばかりで敬遠していた人などにはおすすめです。自己啓発に疑問を覚え始めた人、宗教や会社のあり方にひっかかりを感じる人、世間の常識について考え直したい人にも良いでしょう。我々の世界がいかに「信じること」、「真実を無視すること」で成り立っているか知ればびっくりすると思います。そこまで難しく考えなくとも、教養として読むだけでもかなり勉強になると思います。







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