ご紹介する本
正欲
ジャンル: 文学・評論
著者: 朝井リョウ
出版社: 新潮社
発売日: 2021/3/26
本の長さ: 386ページ
この本から学べるポイント
- 1:本当の意味でのダイバーシティとはなにか
- 2:他人から見たら受け入れがたい欲求を抱く人たちの葛藤
- 3:多様性の認知の難しさ
東京都にお住いのペンネームもぐらたんさん33歳女性(職業:会社員・職員(正規雇用)?)から2021年6月頃に読まれた正欲を読まれたレビューになります。以下からKindleや中古で購入できるので興味がある方は是非見てみてください
正欲の内容
「桐島、部活やめるってよ」の作者朝井リョウが描く小説。2023年に稲垣吾郎、新垣結衣で映画化することも決定している話題作。人間が持つ”正しい欲”とはなにか、”多様性とはなにか”を痛いほどに突き付けられます。自身が考える物事の概念と他人が考える物事の概念が違うと気が付いたとき、それを受け入れることが出来るのか試されます。自分だけが違うのか、その人だけが違うのか…。昨今、ダイバーシティといたるところで聞きますが、さらに深いところまで考えさせられる作品です。
正欲の著者について
著者:朝井リョウ2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
2013年『何者』で第148回直木賞を受賞。
2014年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。
2021年『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞。
Youtube
【キノベス!2022贈賞式】2位 新潮社『正欲』朝井リョウさんスピーチ
正欲本の要約
この本から学べるポイント
- 1:本当の意味でのダイバーシティとはなにか
- 2:他人から見たら受け入れがたい欲求を抱く人たちの葛藤
- 3:多様性の認知の難しさ
3人の主人公がある人物の事故死をきっかけに繋がっていく。
その事故死の関係者たちは共通した性欲があった。本の中では”ペドフェリア(小児性愛者)”かと思わせるようミスリードされるが、最終的には”水”に性欲を感じているということがわかる。
誰にも理解してもらえない性欲を抱えながら生きていく人たちの様子と、自身が理解できない性欲を抱えていることに気づきながらも、認知し受け入れることが出来ない両者の葛藤を描いた作品。
本当の意味でのダイバーシティとはなにか
昨今ではダイバーシティと騒がれているが、その代表例であるLGBTQ+は社会に認知され、容認している国や人も少なくない。今作の中で取り扱う性欲は今作以外で聞いたことがないし、現実社会にいるのかもわからない。でももし、それをかかえる人が実際にいたとして、その秘密を打ち明けられた時、私は理解を示してあげられるだろうかと考え込んでしまった。
自分に経験がないこと、知識がないことであればあるほど、恐怖を感じ拒絶してしまう。
自分はダイバーシティを理解していると思っていたが、本作を読んで、それが恥ずかしいほどに上っ面で薄っぺらい認識だったとたたきつけられた。
他人から見たら受け入れがたい欲求を抱く人たちの葛藤
”普通”の輪に入れない欲求を持って生まれた人たちにとって、この世の生きづらさは計り知れないものがある。動物の集団が”普通”の輪に入れない個体を排除するように、人間も自身の理解できない存在に出会った時、排斥行動に出ようとする。自分を擬態しながら普通の輪の中に無理やり体をねじ込むのは想像するだけでも辛い。人とは違う欲求を隠し、だれにも共有できず、発散することもままならない。そんな人生を歩んでいる人たちに「多様性を認めてるよ」なんて気安く言葉をかけるべきではないと思った。今まで自分がそのように声をかけていたことが恥ずかしかったし、彼ら彼女らに辛い思いをさせてしまったと深く反省した。
多様性の認知の難しさ
”多様性”という言葉を聞いて思い浮かぶようなものは、すでに人々に認知されている内容だと思う。それよりも全く聞いたことのない”個々が持つ感覚”を言語化し全員が認知できる形にアウトプット出来たとき、それを認知し受け入れる準備が出来て初めて「多様性を受け入れる」「ダイバーシティ」になると感じた。人々の”普通”の枠が壊れ拡大していっている今だからこそ、マイノリティ側の許容量を試されているのではないかと感じた。また、マジョリティ側の感じている劣等感をくみとり、ひっそりと見守ることも互いの生活のためには必要だと思う。
正欲を読んでの感想やレビュー
過去読書をしてきた中で、今までの自分の生活や発言を改めて考えさせられた作品は初めてだった。帯に書かれていた「みんなのヒミツ、暴かれた。」というのをみて気になって読んだが、読んでみて本当に良かったと思った。今まで失礼を働いてしまったゲイの友人には、本書を読み終わった後で謝罪をし、本作を読んでほしいとオススメし、互いに感想を言い合ったことでより親密になることが出来たと思う。秘密を打ち明けたくない人の心情に寄り添うことが出来ていなかった自分を反省するとともに、今後は寄り添いの方法を考えながらいろんな人と接していこうと前向きになることも出来た。昨年読んだ本の中で一番カルチャーショックを受けた本だった。
正欲がおすすめでない人
こんな人はおすすめしない
- 他人に興味がない人
- HSP(繊細さん)
- 話題作のネタバレを受けたくない人
- 多様性に興味がない人
- ミステリー小説を読みたい人
他者に興味がない人というのは、裏を返せば他人がどうあっても生活することが出来る人だと思う。それは逆説的に多様性を受け入れていることになり、今回問題提起しているテーマについて自然とクリアしているということになる。
HSPについては、様々な状況の人たちの葛藤が描かれているため、読むのがつらいと思う。
本作は映画化する話題作のため、話題作のネタバレをされたくない人にとってもオススメできない。また、根幹である”水”に対する性欲についてはネタバレに繋がるため見ない方が良いと思う。
正欲をおすすめしたい人
こんな人におすすめ
- 話題作を読みたい
- 多様性とはなにかを考えたい
- LGBTQ+が周りにいる
- 多様性を認めていると思っている人
- 人とは違うことに悩んでいる人
私自身が”人よりも多様性を容認していて誰がどのような人でも受け入れることが出来る”と自認していたが、この本を読んで価値観を変えられたため。”多様性を受け入れる”ということを話題に出すことが相手のためだと勘違いをし、必要以上に相手にプレッシャーを与えていたのではないかと深く反省した。お互いを真に理解することは家族であってもすることはできない。自分の感覚や欲求がマジョリティだと感じると、擬態し普通に溶け込みながら生活しなければ生きていくことが出来ない。それをわかったつもりで接することがいかに相手を傷つける行為なのか、本書を読んで考えさせられた。私のように勘違いし、自分よがりな接し方をし、無意識のうちに相手を傷つけている人にぜひ読んでほしい。