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この本から学べるポイント
- 1:個人から発展してもっと大きな自分になる方法
- 2:理解できないからこそ魅力のあるものがある
- 3:古代から大切にされてきた則天去私の教え
神奈川県にお住いのペンネームtakeshiさん36歳男性(職業:会社員・職員(非正規雇用)?)から2022年1月頃に読まれた100分de名著 夏目漱石スペシャルを読まれたレビューになります。
100分de名著 夏目漱石スペシャルの内容
"夏目漱石の作品「三四郎」「夢十夜」「道草」「明暗」を解説してくれている本です。東大教授である阿部先生が、各作品についての解釈を教えてくださっているので、東大教授の講義を576円で受ける事ができるとてもお得な一冊だと思います。
女性の理解の仕方、文章論理から外れた作品の捉え方、など、役立つ知識が多く掲載されており、誰が読んでも得る物のある優れた内容に仕上がっていると思います。
作品の解釈が難しい漱石の著作について、自分はこのように思っていたけれど、実際には、どのように捉えられているんだろう、といったように、答え合わせをするように読んでみると楽しめるかもしれません。"
100分de名著 夏目漱石スペシャルの著者について
著者:阿部公彦
"1966年生まれの東大教授です。東京大学文学部を卒業後、ケンブリッジ大学で博士号を取得するなど、優れた経歴の持ち主であり、その知性は、本書にもいかんなく発揮されています。
小説を執筆し、早稲田文学新人賞を受賞したり、サントリー学芸賞を取ったり、文学業界における最高峰の知性と言えるかもしれません。
同氏は、多数の著作を執筆しており、夏目漱石の外にも、村上春樹、小島信夫などについて論じており、英詩についての著作も残している、幅広い知性が魅力のある人物です。"
100分de名著 夏目漱石スペシャル本の要約
この本から学べるポイント
- 1:個人から発展してもっと大きな自分になる方法
- 2:理解できないからこそ魅力のあるものがある
- 3:古代から大切にされてきた則天去私の教え
"要は、この本は、漱石の難解な作品をどのように解釈したらいいのか、その手助けをしてくれるような一冊だと思います。
三四郎と美禰子の関係はどのようなものか。そこに漱石は何を描いたのか?といった事がすぐに分かり、それを説明する事ができる方には読む必要のない本だと思うのですが、私は、漱石の作品を読んでも理解が及ばない部分が多数あったため、この本はその理解を助けるために大いに役立ちました。
特に「夢十夜」などは、あえて文章理論からの逸脱を目指した作品であるため、その解説が知りたい、という方には、本書はうってつけなのではないか、と思います。"
個人から発展してもっと大きな自分になる方法
"この本の中では、漱石が執筆のテーマにしていたパブリックとプライベートの分離について言及されていて、漱石は、それを「こころ」といった作品でも取り扱っています。
個人の心はかけがえのないものであり、尊重されるべきものですが、それを共同体の都合とどう対置させていくか、という事は近代社会のテーマのひとつである、と著者は述べています。
漱石は、行き過ぎた個人主義は自我肥大をもたらす悪い側面があると批判しています。また、姜尚中氏のような方は、自我という要塞の存在に気付けば、利益や行動の目的を自分だけでなく、もっと広い範囲、組織や自分の周りの環境に当てはめて考える事ができ、そこに組織や会社、共同体で生きていく上でのヒントがある、と述べています。
また、古代ローマは、自分がどう思うかより、集団の中でどう判断されるか、という所に価値がある社会でした。そこには、個人を尊重する事の多い現代社会とは異なる思想が生きていて、そのような考え方は、このような説明にも当てはめる事ができ、個人的には新鮮でした。
自分が自分が、という事ばかり考えてしまうような時は、視線を集団単位に広げて見てみると、自分という窮屈な存在を離れて大きな流れの中にある大きな自分を認識する事ができ、そこに生きる自分に価値を見い出す事もできるのではないか、と思いました。
これは、この書籍で学んだ事のひとつです。"
理解できないからこそ魅力のあるものがある
"「三四郎」の女性に対する行動を見て、女性とは、理解するものではない、という事を学びました。
三四郎は、美禰子を型にはめて理解しようとするのですが、なかなか上手く理解する事ができません。普通、人と接している時には、この人はこういった人だな、と理解する事ができるのですが、三四郎は、美禰子をそのように理解できないのです。
これは、愛する人を思えば思うほど、詳細な部分まで理解したい、という願望の表れかもしれませんし、女性の中にはその時々で発言が変わる人もいる、という事を言っているのかもしれません。また、この他にも、著者は、女性を永遠のようなものに閉じ込め、固着させたいという男性的な思いの表れかもしれません、と述べています。
恋は人を盲目にすると言いますが、三四郎と美禰子のこのような関係を知った時、三四郎の美禰子を理解したい、という気持ちもそれに近いのかな、と思いました。
また、他人というものは、何時出会っても新しい発見があるものであり、その人を完璧に理解するような事はできないと思うのですが、それを型にはめて理解したい、と願う三四郎は、研究者のような所があるな、と思いましたし、自分の中にも、そのような所はあるかもしれない、と気付かされました。"
古代から大切にされてきた則天去私の教え
"漱石は、晩年に「則天去私」と言って、自然をそのまま受け止めて自我から解放されるという考え方を唱えた、と著者は言います。
これは、なかなか魅力的な良い考え方だと思いました。古代ローマの皇帝マルクス・アウレリウスは、自然のままに生きる事の大切さを、自省録の中で述べていますし、仏教にも、自然に沿って生きる事の大切さは述べられていると思います。
このような考え方を「則天去私」という言葉で表したのは、夏目漱石にもこの思想が魅力的に映ったからだと思います。また、これは、先ほど記述した自我肥大とも関係する部分もあるのではないか、と思いました。
しかし、天にのっとり私を去るのは、難しい部分があり、私も実践したいのですが、どうしても我欲が出てしまう部分があり、これを実現する事の難しさは、日々体感しています。
しかし、柳生宗矩やピカソは、このような境地に至った、というような事が述べられているので、私もそのような優れた心を目指して頑張りたいと思いました。"
100分de名著 夏目漱石スペシャルを読んでの感想やレビュー
"近代社会の抱える自己実現の欲求に対して、自我肥大という言葉を当てて、もっと大きなスケールで自分を見る事の面白さを教えてくれたのは、漱石だと思います。私は、このような教えを、姜尚中氏やこの本の著者である阿部公彦氏の漱石論から学びました。
これは、自分の事しか考えていなかった私にとっては、とても大きな価値観の転換になりましたし、同じような悩みを抱えている方にも、ぜひ知ってもらいたいと思います。
また、女性を型にはめて人形のように扱う傾向にある私には、「三四郎」を手玉に取る美禰子の振る舞いは自分とは異なる世界の事のようで新鮮でしたし、この本から、洗練された男女関係とは何なのか、学べたような気がします。
東大教授の執筆した堅い本から、女性の扱いを学ぶというのは、少し意外な部分があったと思いますし、そこにこの本の面白さがあると思います。
漱石は、小説の中で何を言いたかったのか。その答え合わせをしてみたい方には、最適な一冊なのではないか、と思いました。"
100分de名著 夏目漱石スペシャルがおすすめでない人
こんな人はおすすめしない
- 作品を読む前に解説を読むのは嫌だ、という方
- 漱石については既によく知っている方
- ここにはない別の作品の解説が読みたい、という方
- 難しい解説はあまり好きではない、という方
- 文学作品はあまり好きではない、という方
"この本では、漱石の作品である「三四郎」「夢十夜」「道草」「明暗」について解説が行われており、当然それらを読んだ事のない方にはあまり意味がないかもしれません。しかし、本を読む前に大雑把に見所を理解しておきたい、という方には良いかもしれませんし、解説だけ読んでも面白いので、単体でも楽しめる一冊だと思います。
しかし、その解説が難しい部分がありますので、そこが受け入れられない、という方もいらっしゃるでしょうし、漱石独自の世界観は好きではない、という方にも、受け入れがたい一冊かもしれません。
それでも、著者独自の解釈には、驚かされる所がありますし、読んで得る物のある優れた本である事は確かだと思います。"
100分de名著 夏目漱石スペシャルをおすすめしたい人
こんな人におすすめ
- 漱石の難解な文章を理解したい方
- 自分では気づかないような漱石の魅力を知りたい方
- 漱石の著作の要点を簡単に知りたい方
- 漱石の人生や性格について知りたい方
- 著者独自の漱石論を読んでみたい方
"まず、漱石の小説は、小説であるため、ここのこういう所にこういう仕掛けがあって、ここではこういった事を暗に述べているよ、と明示されていません。そのような事もあり、私は、そこに秘められた魅力を全て一度に理解する事ができませんでした。
そのような時、この本を読んで、ここのこういった言葉にはこのような意味が含まれているんだよ、と解説してくださっていたり、漱石の人生に照らし合わせて内容を吟味してみたりする事を通して、専門家にしかできない読み方と解釈を知る事ができたのは、良かったと思います。
このように、漱石の文章は自分には難しい、この小説は何を言いたいのだろう、と思うような方や、漱石を総合的に理解したい、という方には、この本は大いに役立つのではないか、と思いました。"