ご紹介する本
総合
読みやすさ
学び
面白さ
この本から学べるポイント
- 1:空港というクローズドサークルを舞台としたミステリー
- 2:人間と見紛う程の高性能ヒューマノイドなどのSF的要素
- 3:単純な破壊工作ではないテロ行為
大阪府にお住いのペンネームさとりりさん36歳女性(職業:その他)から2021年9月頃に読まれた消滅 VANISHING POINTを読まれたレビューになります。
消滅 VANISHING POINTの内容
超大型台風が接近する中、日本の国際空港の入管で、11人の人物が別室へと案内される。彼らは年齢も性別も渡航先もバラバラで、そして皆、なぜ自分が入管で止められてしまったのかの心当たりもない、と言う。
大規模な通信障害も発生し、外部との連絡もまったく取れない状態で半ば軟禁状態となる中、突如その中の1人が「この中にテロリストが紛れている。それを皆さんで見つけ出してほしい」と口にする。
疑心暗鬼で混乱する中、空港からの脱出を目指し、それぞれ推理を展開していく。
消滅 VANISHING POINTの著者について
著者:恩田陸
宮城県生まれの小説家。会社勤めの傍ら、1992年に『六番目の小夜子』で小説家デビュー。現在は専業作家で、ミステリーからホラー、ファンタジーなど、多岐にわたって活躍している。
消滅 VANISHING POINT本の要約
この本から学べるポイント
- 1:空港というクローズドサークルを舞台としたミステリー
- 2:人間と見紛う程の高性能ヒューマノイドなどのSF的要素
- 3:単純な破壊工作ではないテロ行為
突如、空港への入管で止められ理由もわからず軟禁状態になる中、この中にテロリストがいると宣告され、それが誰なのか判明するまで解放できないと宣告される。
ただでさえ混乱する状況の中で、人間だと思っていたものが実は高性能AIを搭載したヒューマノイドと判明したり、感染力の高い新型肺炎感染の疑い、空港に迫る高潮の危機など、事態はさらに混迷を極めていく。
そもそも「消滅」という用語が使われるテロとはどういうものなのか。
大型台風が迫る空港を舞台に、散りばめられた無数の謎が解き明かされていくストーリー。
空港というクローズドサークルを舞台としたミステリー
この本のストーリーは、空港の入管で止められた人物たちが別室に連行され、半ば軟禁状態の中で、この中に潜んでいるテロリストを探す、というれっきとしたミステリー作品である、と言えます。
大型台風が接近する中、大規模な通信障害によって外部との連絡手段も絶たれた、いわゆる「クローズドサークル」とも言える状況で、登場人物たちはテロリスト探しを進めていきます。
「なぜ自分は疑われたのか」「懸念されているテロとはいったいどういうものなのか」などといった無数の謎に挑む物語なのです。
人間と見紛う程の高性能ヒューマノイドなどのSF的要素
本作にはいくつかのSF的な要素も登場します。
その筆頭とも言えるのが、入管で別室に隔離されたメンバーの中に紛れ込んでいた、高性能AIを搭載したヒューマノイド・通称「キャスリン」でしょう。
彼女は当初、憔悴した人間の女性を演じ、己の正体と役割を明かしてからも、周囲にはまるで生身の人間とした思えないような振る舞いをします。
一方で、目視だけで他人の体温を測ったりと、明らかに人間ではない一面を時折見せつけ、そこがまた不気味でもあります。
単純な破壊工作ではないテロ行為
「テロ行為」と聞くと、武力による破壊活動であったり、また他者を時に無差別に傷つける行為であったりと、そういったものをイメージすることが大半だと思います。
ですが、本作の中の「テロ」はまたそのイメージとは一線を画すものであるでしょう。
その実態は全くもって不明ながら、当局によって執拗に警戒されている「テロ」。その実態は物語の最後で明かされますが、なるほどこういう形のものもある種の破壊工作と言えるのか、と新しい気付きをもたらしてくれます。
消滅 VANISHING POINTを読んでの感想やレビュー
手に取ってから最後まで、一気に読み進めてしまいました。それくらい夢中になって楽しむことができました。
登場人物もそれぞれに癖のあるキャラクターで、視点が切り替わっていく度に、なるほどこの人ならこう考えるだろうな、と納得させられる程、書き分けもしっかりなされています。
作中にはSF的・ファンタジー的な要素も盛り込まれていますが、その使われ方がとても上手く、時事的問題も絡められていることも相まって、本当にどこかでありそうだな、と思わせてくれる、リアリティのある物語だと思います。
消滅 VANISHING POINTがおすすめでない人
こんな人はおすすめしない
- 登場人物が多い話が苦手な人
- ミステリーと言えば殺人事件、というイメージを持っている人
- 警察や、明らかな探偵役の登場を期待する人
- 時事問題などにあまり関心がない人
- SFやファンタジー的な要素を好まない人
本作は「ミステリー」のジャンルに入る話であると言えるかと思いますが、いわゆる殺人事件が起こる訳ではありません。よって警察も登場しませんし、明らかな探偵役も存在しません。むしろ、登場人物それぞれが探偵役を担っている、と言えるでしょう。ですので、「殺人が起こって、警察が駆け付け、探偵役が解決する」といった典型的な展開を期待している人にはおすすめは難しいでしょう。
また、登場人物それぞれに視点が切り替わって描写されていくので、誰が誰なのか覚えられないと内容の把握が困難になるでしょう。
ストーリーの中には、時事的な事柄もいくつか登場します。知らないからといってストーリーが全く理解できなくなる、という訳ではありませんが、やはりある程度の関心・知識があった方が、より楽しめるでしょう。
そしてSFや、ややファンタジーともとれる要素も盛り込まれています。こういったものは受け入れ難い、という人にはあまりおすすめできません。
消滅 VANISHING POINTをおすすめしたい人
こんな人におすすめ
- クローズドサークルを舞台としたミステリーが好きな人
- ヒューマノイドなど、SF的要素が盛り込まれた話が好きな人
- 多数の登場人物が繰り広げる心理戦が好きな人
- 新型肺炎や、匿名文書から正体を暴くサイトなど、現実でも存在する・ありえるかもしれない事柄を楽しめる人
- 散りばめられた無数の謎が、ドミノのようにきれいに解決されていく話が好きな人
空港に足止めされる中、自分は偶然居合わせただけだと思っている人物たちが、疑心暗鬼になりながらも潜伏していると言われているテロリスト探しに奔走する。そのシチュエーションだけでも、ミステリー好きにはたまらなくワクワクするものがあるでしょう。互いを疑いながらも交わされる会話劇もとても興味深いです。
そして決して単純な謎解きだけに終始するのではなく、その中にSF的要素が盛り込まれていたり、時事的な問題が紛れていたりと、より読み手の知的好奇心を刺激してくれるスパイス的な役割が豊富に散りばめられています。
当然最後には謎解きも成されるのですが、その展開の鮮やかさに驚かされると同時に、とても満足させられることと思います。