ご紹介する本
噛みあわない会話と、ある過去について
ジャンル: 文学・評論, 文芸作品
著者: 辻村深月
出版社: 講談社
発売日: 2021/10/15
本の長さ: 256ページ
この本から学べるポイント
- 1:相手の存在を軽んじてしまったら、誰が許しても自分自身だけは許せないということ。
- 2:自分が深く考えず、ほとんど無意識に発した言葉が相手を傷つけているかもしれないということ。
- 3:自分によって傷つけられた相手が、いつまでも自分を許してくれないことがあるかもしれないということ。
京都府にお住いのペンネームyucocoさん38歳女性(職業:会社員・職員(非正規雇用)?)から2022年12月頃に読まれた噛みあわない会話と、ある過去についてを読まれたレビューになります。以下からKindleや中古で購入できるので興味がある方は是非見てみてください
噛みあわない会話と、ある過去についての内容
登場人物が過去に関わった「誰か」との出来事が描かれています。両者の間には会話が成立しているように見えて、全くかみ合いません。
大学時代の同期である「男を感じさせない男友達」の婚約者はどこかズレていた(「ナベちゃんのヨメ」)。教師である主人公は有名人になった元教え子と再会するが、その教え子の印象は薄かった(「パッとしない子」)。友達の引っ越しを手伝いに行った際、友達の母親の話を聞くことになる(母・ママ)。出版社に勤める主人公は、自称霊感少女の元同級生で今は塾経営者となった女性を取材することになる(「早穂とゆかり」)。身に覚えのある人は、少しぎくりとするようなお話です。
噛みあわない会話と、ある過去についての著者について
著者:辻村深月女性ミステリー作家です。『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞され、文壇デビューをされました。『ツナグ』、『鍵のない夢を見る』などで有名です。
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【本を愛でる会】第4回目「噛みあわない会話と、ある過去について」辻村深月/著
噛みあわない会話と、ある過去について本の要約
この本から学べるポイント
- 1:相手の存在を軽んじてしまったら、誰が許しても自分自身だけは許せないということ。
- 2:自分が深く考えず、ほとんど無意識に発した言葉が相手を傷つけているかもしれないということ。
- 3:自分によって傷つけられた相手が、いつまでも自分を許してくれないことがあるかもしれないということ。
人間だれしも完璧ではありません。だから、その時々で他者に対してつらく当たってしまったこともあるでしょうし、自分では意識していなかったけれど相手を傷つけてしまったこともあると思います。そういった、誰もが心の奥底に押し込めておきたいような感情を描いたのがこの短編集です。人は一人では生きることができず、あらゆる場所であらゆる人間関係を築いていきます。そのような中で、この物語に書かれていることは決して他人事には思えず、チクリと刺さるものがあるかもしれませんし、今後の教訓になるかもしれません。私は、決して物語の中だけの話だとは思えませんでした。
相手の存在を軽んじてしまったら、誰が許しても自分自身だけは許せないということ。
誰かを軽んじてしまった場合、それが意識的であれ無意識的であれ、後から自覚すると少し嫌な気持ちになります。
自分の醜い部分を見てしまったような気持ちです。誰が見ていなくても、たとえ相手が許してくれて普通に接してくれていても、その人を軽んじていた自分は消えません。
この物語を読んで私は今までの人生を振り返り、何度も私の人生は本当に潔白かと考えました。意識的に相手を軽んじたことはありませんが、優越感に浸った経験くらいはあります。
そのとき、おそらく私はとても見にくい姿をしていたのではないかと思います。誰が許してくれても、相手を軽んじてしまった自分を許せない気持ちになりました。
自分が深く考えず、ほとんど無意識に発した言葉が相手を傷つけているかもしれないということ。
相手を傷つけるの言葉や態度は、わかりやすい悪意だけではありません。いじめの加害者なども、「知らない間に相手を傷つけてしまった。そんなつもりはなかった」と言うことがあります。自分にとっては何でもない言葉でも、相手の心を深く傷つけてしまう場合があるのです。これに関しては気を付けるしかありません。しかし、おそらく気を付けているうちは大丈夫だと思います。この物語の主人公たちも、相手を傷つけている時はやはり「調子に乗っている」状態でした。順境こそ、気を付けなければいけないと思いました。私は誰かを傷つけるかもしれない。調子にだけは乗らないようにしようと学びました。
自分によって傷つけられた相手が、いつまでも自分を許してくれないことがあるかもしれないということ。
自分によって傷つけられた相手が、まるで時効を迎えるように時とともに自分を許してくれるとは限りません。
二度と会いたくない、それどころか自分の姿すら見てほしくない。相手がそのように思っていることもあります。
相手を傷つけた時の自分はまだ幼かった、何もわかっていなかったなどと言ったところで、傷つけたものを元に戻すことはできないのです。
私はこれまできっと、何人かの人のことは傷つけてきたと思います。私を恨んでいる人もいるかもしれません。私に恨まれる筋合いがなくても、私はきっとその人に何かをやらかしたのです。もし、私の目の前に、私が過去に傷つけてしまった誰かが現れたら、私は心から謝罪し、その人のことはそっとしておきたいと思いました。
噛みあわない会話と、ある過去についてを読んでの感想やレビュー
私にとって辻村深月さんは、本格的なミステリー小説や心が温かくなる物語を書く作家さんでした。
しかしこの物語は本当に痛いところを突かれたと感じました。私は今まで潔白、とはいかないまでも、意図的に人を傷つけたり、いじめたりといったことはせずに生きてきたつもりでした。それなのに身に覚えがあるという、なんとも言えない読後感でした。しかしこの少し胸の痛む感情も私には必要だったと思います。この先いろいろな人と出会っていく中で、私の中の醜い部分が姿を現さないように、相手を思いやって生きていこうと思えました。
噛みあわない会話と、ある過去についてがおすすめでない人
こんな人はおすすめしない
- 本を読んでスカッとしたいタイプだが、自分は誰かを傷つけたことがあるという人。
- 心がキレイすぎて、本当にいじめなどの人間の醜い感情とは無縁な人。
- 人間関係にトラウマを抱えていて、敏感になりすぎている人。
- なし
- なし
スカッとしたいけれど誰かを傷つけたことがあるという人は、この本を読んで帰ってモヤモヤするかもしれません。ずばり自分が責められている気分になると思いますので、心の準備をしてから読んでください。また、心がキレイすぎる人も、登場人物の言葉に傷つくかもしれません。こういう世界もあるのか、と受け止められるのならば読むことをお勧めします。トラウマを抱えている人にとっても、過去の嫌な出来事を思い出すきっかけになってしまうかもしれません。しかし、本書の内容についてある程度覚悟して読めば、どんな人にとっても共感できる部分や学びが多い作品だと思います。
噛みあわない会話と、ある過去についてをおすすめしたい人
こんな人におすすめ
- 誰かに傷つけられた記憶のある人。
- 誰かを傷つけたことのある人。
- 自分は誰のことも傷つけたことがないし、見下したこともないと思っている人。
- なし
- なし
もし誰かのせいで傷ついている人がこの本を読めば、いくぶんかスカッとすると思います。こんなにも自分の気持ちを代弁してくれる本があるのかと嬉しくなるでしょう。
ただし、傷つけたことのある人にとってはとても胸が痛くなる内容です。しかしそれは読者にとって、これからの人生を生きていくうえで必要な痛みだと思います。
また、相手を傷つけたことも、いじめたことも、見下したこともないと思っている人が読むと、「あれ?」と思うかもしれません。自分では、人を傷つけることとは無縁だと思っていたのに、ハッと気づかされる可能性があります。「もしかしてあの人、自分のことを怒っているのではないか」。もしそう思ったならば、それででも読者にとって読む価値があった本だと思います。