ご紹介する本
総合
読みやすさ
学び
実用性
この本から学べるポイント
- 1:好きな異性に声をかける時に、正しい声のかけ方など存在しないということ
- 2:何事も粘り強く押してみる事の大切さ
- 3:世の中には計り知れない貧乏な生活があるのだということ
神奈川県にお住いのペンネームtakeshiさん35歳男性(職業:会社員・職員(非正規雇用)?)から2021年10月頃に読まれたカンガルー日和を読まれたレビューになります。
カンガルー日和の内容
村上春樹さんの1981年から1983年までに書かれた小説を集めた短編集です。
カンガルーを見るのに最適な日にカンガルーを見に行く表題作「カンガルー日和」や、「4月のある晴れた朝に100%の女の子に出会うことについて」「チーズ・ケーキのような形をした僕の貧乏」など、タイトルを読んだだけで、なんだろうこれは、と興味を惹かれる優れた小説が収録されています。
内容も面白い物が多く、お菓子会社にお菓子の新製品を売り込みに行った所、カラスに味の評価をしてもらう事になった、など、奇想天外ではありますが確かな面白さのある小説が、多数取り揃えられています。
23篇ある短編のどれから読んでも大丈夫で、気軽に楽しく村上春樹さんの世界を体験したい方におすすめできる一冊です。
カンガルー日和の著者について
著者:村上春樹
日本で一番有名な小説家ではないか、と思われる著名人です。大学在学中にジャズ喫茶を開業したり、学生結婚したりするなど、面白い経歴の持ち主であり、この部分だけを見ると自由奔放で無茶苦茶な方なのかと思われます。
しかし、小説の中では、礼節をわきまえたきちんとした世界観と、苦労を重ねてきた事がうかがわれる描写、また、そこから生まれる深い人生哲学などは、春樹さんの人間的な奥深さと人間として大切なものとは何か、を教えてくれるものであり、春樹さんが優れた人生経験と卓越した考察力を持っている事が分かります。
カンガルー日和本の要約
この本から学べるポイント
- 1:好きな異性に声をかける時に、正しい声のかけ方など存在しないということ
- 2:何事も粘り強く押してみる事の大切さ
- 3:世の中には計り知れない貧乏な生活があるのだということ
各短編にそれぞれ魅力があり、単純に面白いだけでなく、不思議な浮遊感のある作品が多数収録されている事が、この作品の良い所だと思います。物語の中には、どこか不条理があり、しかし、それが何の問題もなくまかり通っていて、そこから不思議な感慨が生まれている部分があると思います。
例えば、「かいつぶり」という小説では、仕事の面接に来た男が、入口で合言葉を求められます。しかし、男は、そのような言葉など知らされておらず、不条理な境遇に置かれるのですが、そのまま物語は進行します。それが独特の世界観を創出していて、男は門番に対して合言葉はこれだ、と意見を提示し、それが否定され、しかし面接には行かないといけないし、という不思議な物語になっています。
このように、不思議な境遇、立場、状況に立った物語が多数収録されており、何とも言えない魅力をもった物語世界が展開されているのが、この小説群の主な特徴です。
好きな異性に声をかける時に、正しい声のかけ方など存在しないということ
これは、「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」という短編で学んだことです。
この作品は、自分にとって100%相性がいい完璧な女の子に出会い、彼女に何と話しかければいいのか、という話で始まります。そこで、実際に最も気の利いていて女性が喜びそうな誘い文句が語られるのですが、それは実際に思いつける人がほとんどいないほど完璧な誘い文句です。おそらく、私が実際に女の子に声をかける時には、そのような気の利いたセリフは考えつく事ができないでしょう。
そのように考えた時、とにかくその場で思いついた言葉で、相手に気持ちを伝える事が何よりも大事であり、作品を通して、考えるよりも行動する事が大切なのだ、と逆説的に教えてくれているような気がしました。
単に面白いだけでなく、このような教訓も学ぶ事ができた、という点で、素晴らしい良い作品だと思いました。
何事も粘り強く押してみる事の大切さ
これは「かいつぶり」という短編から学んだ事です。
主人公の男は、仕事先の詳細の書かれたはがきをもって、仕事の面接に向かいます。しかし、仕事場に向かう途中の道筋は、はがきに書かれている案内と異なり、主人公は道に迷います。それでも、割のいい仕事のためにあきらめずに何とか仕事場までたどり着き、玄関のドアをノックします。すると、職員が出てきたのですが、面接を受けるためには合言葉が必要だと言われます。主人公はそんなものは知らないのですが、職員は頑なに合言葉がないと取り次げない、と繰り返すだけで、一向に通してくれません。主人公は何とか合言葉を考えるのですが、困難の連続です。最後はハッピーエンドになるのですが、そこまでの不条理な出来事を考えると、話の中に、主人公の目的に向かう意志の強さを見い出す事ができ、やはり成功する人は固い意志をもっているのかもしれない、という事が分かるようなエピソードでした。
普通、不条理な出来事が起こると、多くの人はそこで立ち止まり、あきらめてしまうものですが、この物語を通して、ある場合には、強い意志を持ち、突き進む事も必要なのだ、という事を学んだような気がします。
世の中には計り知れない貧乏な生活があるのだということ
これは「チーズ・ケーキのような形をした僕の貧乏」という短編から学びました。主人公の夫婦は、2つの線路に挟まれたチーズ・ケーキのような形をした家を借りる事になります。そこは、電車が通ると会話ができないほどうるさく、電車がしょっちゅう通るのでまともな生活も困難です。そんな家に、布団と衣類と食器と電気スタンド、何冊かの本と猫だけをもって引っ越した主人公夫婦は、台所の流しが寒さで凍り付くような体験をしながらその家で生きていきます。
これは物語の中の話ですが、そのような貧乏な生活の事を考えると、私の今の生活も悪くはないかな、と思えましたし、自分の恵まれている部分を再確認する事ができたような気がします。
イラクのバグダットでは、捨てられている段ボールを拾って売る生活をしている少女達がいますし、アフガニスタンでは、国民の60%以上が一日2ドル以下で生活していて、生まれた子供の25%は死んでしまいます。
2021年の現代世界で、そのような人々がいる事を思い、この小説のような生活を考えた時、そこから学び得るものもあるような気がしました。
カンガルー日和を読んでの感想やレビュー
たくさんある小説の中でも、村上さん独自の春樹色が特に強く出ているのが、この短編集だと思います。
タイトルを見ただけで、もう一度読み返したいと思えるような面白い作品ばかりであり、しかもそれが今の小説にはない独特の空気感をもっていて、この一冊を読めば、80年代の雰囲気を味わう事ができるような気がします。
また、アイディア、文章力、構成、どれをとっても、最高の品質を楽しむ事ができる優れた一冊であり、ひとつひとつの作品に世界があり、血が通っており、独自の楽しさが含まれています。23編にも及ぶ色々な世界を堪能する事ができる、気軽に読める、安い、優れた、想像力の中に浸かれる、など、様々な表現をする事ができる良い本だと思いました。
カンガルー日和がおすすめでない人
こんな人はおすすめしない
- 村上春樹さんの独自の世界観が好きになれない方
- 重厚な物語の長編小説が読みたいという方
- 感情の流れなどを楽しむ文学作品を読みたい方
- エンタメ小説は苦手だという方
- 大きな教訓をもつ作品、社会問題を扱った作品が読みたい方
村上春樹さんの作品は、独特な世界観を形成しているため、それが肌に合わないという方は、楽しめないかもしれません。
また、この作品では、文学作品のように感情の機微を精緻な筆記で捉えたような要素は少ないですし、社会問題を取り扱った重厚なテーマがあるわけでもありません。それゆえ、この本を読む事によって何かを得たい、と思うような方には、不向きかなと思いました。
ただ、先ほど紹介したように、この本を読む事で学べることもあります。エンタメではありますが、そこに深い世界観がある事も事実であり、作品の中から何らかの思いをすくい取る事もできるのではないかと思います。
しかし、基本的には単純に娯楽小説を楽しみ、楽しい会話とセンスの良い描写、不思議な感覚を催す世界観を楽しみたい方向けの作品である事は事実ですので、その点には留意する必要があると思います。
カンガルー日和をおすすめしたい人
こんな人におすすめ
- 面白い小説が好きな方
- 今とは異なる80年代の雰囲気を作品を通して味わってみたい方
- 短編を気軽に読みたいという方
- 普段あまり本を読まない小説初心者の方
- 不思議な世界観を体験してみたい方
まず、村上春樹さんの小説は、全体的におしゃれで洗練されていて独自の世界観があります。この作品もその例外ではなく、普通のエンタメ小説とは毛色の違う不思議な浮遊感のある作品が多数収録されており、それゆえ面白く、人を魅了する作品です。この作品も、自分とは異なる考えに触れ、豊かな想像力に出会い、優れた読書体験ができるという意味において、たいへん優れた作品になっていると思います。
そのような点を考えた時、面白い小説が好きな方、おしゃれな小説が好きな方、短編を気軽に読みたいという方、不思議な世界観を体験してみたい方、にうってつけの本なのではないか、と思いました。
また、小説を読むうえで発想の勝利と言わんばかりの読みやすくて面白い作品が多数収録されているので、普段本を読まない初心者の方にもおすすめできると思います。また、作品を通して80年代の雰囲気を味わう事ができ、現在とは異なる雰囲気をもった小説を読みたい方にもおすすめです。
この作品を契機にして、小説の面白さが分かるようになったという方もいると思いますし、読書の世界への入り口として最適な一冊ではないか、と思いました。