ご紹介する本
共同幻想論
ジャンル: SpecialPick, ビジネス・経済
著者: 吉本隆明
出版社: 河出書房新社
発売日: 1968/12/1
本の長さ: 257ページ
この本から学べるポイント
- 1:国家という幻想は、未知の外来人の存在や死への恐怖が権力への畏怖にすり替わってできたものだということ
- 2:ヨーロッパ中心の学問は自分自身の利になるような知識のみを取り上げていること
- 3:人が国家に逆らえないのはタブーを犯すことで自分自身がその社会にとって不要な存在になってしまうからだということ
東京都にお住いのペンネームオカザキさん20歳男性(職業:学生?)から2022年10月頃に読まれた共同幻想論を読まれたレビューになります。以下からKindleや中古で購入できるので興味がある方は是非見てみてください
共同幻想論の内容
国家や村落など、すべての社会を構成する「共同体」は、共通の物語によって結びついています。現代の国家であれば「法」が人々の行動を制限するように、どんな社会にもやってはいけないタブーがあり、そのタブーを破らないように行動するうちに、人々は本来の自分の意志とは違う行動をとったり、自分の意志を共同体の意志と混同したりしてしまいます。人はどのようなメカニズムで「権力」を恐れ、社会のルールに従うのかというテーマを、柳田国男やマルクス、フロイトを紐解きながら鋭く分析している本です。
共同幻想論の著者について
著者:吉本隆明吉本隆明は、戦時に学生として徴兵されず生き残った体験を持つ思想家・詩人です。彼は、「なぜ人は自分の意思に反して国家などという者のために戦うのか」という切実な疑問から長い時間をかけて「共同体」やそれを結びつける「言語」について研究した人です。
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故吉本隆明氏に贈る言葉
共同幻想論本の要約
この本から学べるポイント
- 1:国家という幻想は、未知の外来人の存在や死への恐怖が権力への畏怖にすり替わってできたものだということ
- 2:ヨーロッパ中心の学問は自分自身の利になるような知識のみを取り上げていること
- 3:人が国家に逆らえないのはタブーを犯すことで自分自身がその社会にとって不要な存在になってしまうからだということ
国はどういうメカニズムで動くのか。という疑問に、法学や歴史学、組織論といった学問の視点とは違う民俗的、心理学的な観点から取り組んだ分析を行っている本です。この本を読むことで、社会契約説や議会と王の歴史などに縛られない、個々の人々の心性と共同体における禁制の(ときに性的な)関係性から国家が成立した契機が説明されています。例えば親子関係と夫婦関係、村の人々の強いつながり、それが拡大して国家の人々の関係、君主と人々の上下関係といった関係性はすべて地続きだということがわかります。
国家という幻想は、未知の外来人の存在や死への恐怖が権力への畏怖にすり替わってできたものだということ
共同体は、はじめはどんなに小さくても、豊かではない生活の中で死なないように、少ない資源でもよりよく生命を維持していくために機能する組織です。その小さな社会を破壊しかねない外来種の侵入や、自分がその共同体から出離することで死んでしまうこと、そういうことを共同体の沈黙のルールは禁じています。いくら共同体が大きくなって、村が街になっても、そこに王や権力者が君臨しても、その沈黙のルール(黙契と禁制の体系)は一様に共同体に効力を及ぼすということです。
ヨーロッパ中心の学問は自分自身の利になるような知識のみを取り上げていること
国家の成り立ち、というような大きなテーマには、幾通りもの解釈が可能です。従来の解釈では、ヨーロッパの農民が産業革命を起こし、キリスト教と王と議会の関係性の中で憲法と民主主義と立憲君主制が生まれ、産業と軍事力、経済の拡大に伴って国家というものが近代化の道をたどってきたという説明がなされます。しかし、本書で取り上げられているように、国家の成り立ちは、キリスト教と民主主義と近代化には関係のないところでも進んでいます。それがマルクスの取り上げた「アジア的農耕共同体」であったり、フロイトの分析したコミュニティ内での自我の喪失と他者への憑依と言った精神病理学上の概念です。ヨーロッパの学問が常に正しいわけではないという疑いの目が大事です。
人が国家に逆らえないのはタブーを犯すことで自分自身がその社会にとって不要な存在になってしまうからだということ
なぜ人は国家の意思と自分の意思が食い違うときに、国家の意思を優先してしまうのか。つまり、例えば赤紙が来た時に、個人的な考えは置いておいて多くの若者が戦争で命を散らすことを選んだわけです。しかし、これが起こるのはなぜなのかをよく考えてみると、国家の意思に自分の意思が異なるときに自分が国家に逆らう必要はないことがわかります。なぜなら、国家共同体のルール・タブーの体系に逆らおうとすると、もはや自分はその一部ではなく、外部分子としてその共同体に戻ることはできなくなるからです。そんな神話的な、現代では無視されがちな国家の側面についても学べます。
共同幻想論を読んでの感想やレビュー
この本は、非常に難しいです。著者が詩人というだけあって、一度読んだだけでは分からないような含蓄や言外の意味が含まれているのだろうな、と推測できる部分が多くあります。一度読めば理解できるような内容でもありません。それはマルクス・エンゲルスの学説のような学問としての難しさについても、柳田国男が遠野物語の中で解説したような心的世界の広がりに起因する難しさについても言えます。しかし、長い時間をかけて読むことで、一昔前の日本人が何を考えていたのかよくわかり、非常にいい本だと言えます。
共同幻想論がおすすめでない人
こんな人はおすすめしない
- 難しい概念は分からないと思う人。例えば、共同幻想、禁制、黙契、巫覡などの用語が頻出する。
- ヨーロッパやアメリカ主導の学問に不満がない人
- 昭和の思想家の考えていたことなど時代遅れだと思うタイプの最先端の哲学・思想を知りたい人
- 小説は好きだがこういった人文書、思想書は苦手な人
- 長い時間をかけて一つの本に取り組みたくない人
基本的に、この本には、とても面白い国家についての考察が書かれています。それだけではなく、吉本隆明は共同幻想の概念を国家から法、宗教と言ったさらに大きな概念にまで拡張し、一般的な共同体についての考察を行っているため、非常に多くの人に訴えかける内容になっています。しかし、この本はいわゆる「とっつきにくい」分野の本なので、ひとつの本に一か月以上かけたくない人、難しい概念を著者が作中で導入するのに耐えきれない人、心理学や哲学に興味がない人にはあまりお勧めできないほか、古い本なので、古い考え方が嫌いな人にもお勧めできません。
共同幻想論をおすすめしたい人
こんな人におすすめ
- 国家の性質について、歴史学や法学による説明に満足していない人
- 心理学や精神病理学の観点からの国家や共同体についての分析について知りたい人
- フランス現代思想や小林秀雄など昭和の時代の日本の批評文化や柳田国男などの文化に興味がある人
- どうせ昭和時代の共同体の分析なんて今では的外れな過去の遺物だろうと思っている人
- 「共同の幻想」という人類にとって永遠のテーマを、日本の思想家はどんな風に捉えていたのか知りたい人
日本には、政治の季節、と呼ばれた全共闘時代の批評・文学・政治・思想の盛り上がった時代が60年代、70年代にありました。戦後の熱が冷めないまま経済は成長し、アメリカと日本の関係について日本国民が必死に考えた安保闘争、破防法闘争の時代がありました。その時代に、国家としての日本はどうすべきか、戦争に散った友人に先立たれた日本の人々や学生は考えていました。その混迷した時代に日本の思想家たちが日本という国家について考えた書物は、非常に大きな意味がありますが、今ではともするとこういった内容は忘れ去られ、人々はイギリスやアメリカ、フランスの思想家が読んだ文献ばかり読んでいます。日本の思想に興味がある人にはお勧めの入門書です。