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100分de名著 アイヌ神謡集 知里幸恵
ジャンル: Kindle本, 文学・評論
著者: 中川裕
出版社:
発売日: 2013/9/5
本の長さ: 416ページ
この本から学べるポイント
- 1:憑神とキュビズムの関係
- 2:日常を精霊と共に過ごす
- 3:カムイから想像する天国の形
神奈川県にお住いのペンネームtakeshiさん36歳男性(職業:会社員・職員(非正規雇用)?)から2022年11月頃に読まれた100分de名著 アイヌ神謡集 知里幸恵を読まれたレビューになります。以下からKindleや中古で購入できるので興味がある方は是非見てみてください
100分de名著 アイヌ神謡集 知里幸恵の内容
アイヌ民族の残した物語には、どのような事が書かれているのか、その内容と要点を分かりやすく解説してくれるのが、この本の特徴です。
その代表的な思想に、「カムイ」というものがあり、カムイの世界ではカムイ達は魂の状態で生活しているので、人間の目には見えません。そこで、人間の世界にやってくる時には、人間に見えるように肉体をまとってやってきます。それが、私達の目に見える熊やキツネなどの動物の姿であり、木や山菜などの植物の姿であり、あるいは燃えさかる炎なのだ、と言います。
それらの形は、カムイの着物だと考えてよい、と著者は指摘しており、これは、プラトンの物事の背景に存在する代表的イメージである「イデア」に動く性質を付け加えたものが、カムイという概念に近い、という事ができそうです。
このように、カムイというアイヌの優れた見識を紹介しながら、著者はアイヌ文化を説明してくれます。
100分de名著 アイヌ神謡集 知里幸恵の著者について
著者:中川裕東京大学の文学部言語学科を卒業した言語学のエキスパートです。アイヌ語の研究者としても知られており、アイヌについての研究で賞を受賞するなど、アイヌの専門家として有名であり、文化庁長官表彰を受賞したり、漫画「ゴールデンカムイ」のアイヌ語監修を行うなど、アイヌにおける日本の第一人者として知られている人物です。
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アイヌ語学 作:知里真志保
100分de名著 アイヌ神謡集 知里幸恵本の要約
この本から学べるポイント
- 1:憑神とキュビズムの関係
- 2:日常を精霊と共に過ごす
- 3:カムイから想像する天国の形
カムイを代表とするアイヌの世界観は、全ての自然物に霊魂・精霊が宿るとして、その霊的存在を敬うアニミズムと似ていると言われます。しかし、著者によると、カムイは、人間を取り巻くあらゆるものがカムイなのであり、そこではそれが人間と同じような精神をもって活動している、と捉えられています。
さきほど、プラトンのイデアが動くイメージがカムイだと言いましたが、もう少しそれを発展させ、カムイは肉体を持ったイデアである、と考えると、イメージを明確化できるのではないか、と思います。
このように、本書には、アイヌの面白い考えが随所に紹介されており、アイヌの分かりにくい言葉を著者が分かりやすく説明してくれているので、とても読みやすい良著となっています。
憑神とキュビズムの関係
アイヌの人々には、憑神を見る事ができる方々もいます。例えば、アイヌのおばあさんは、著者に、「自分には他人の憑神が見える」と語り、「お前の憑神がアイヌについて知りたくてお前をここに導いたんだ。だから、私はお前ではなくお前の憑神にアイヌ語を教えてるんだ」と言います。
憑神とは、現代精神医学で言えば、深層心理や潜在意識と呼ばれるものでしょう。著者はその点について、その人の背後に見えるものの存在を、納得のいく形で説明してくれます。
つまり、その人の性格が形を取って表れた守護霊のようなものが憑神です。人と話しているうちに、その人の性格が分かる時がありますが、その時、弱気という憑神、怒りという憑神、悲しみといった憑神が見えるのだと思います。
もしくは、それらを総体として、ピカソのキュビズムのように様々な角度からの性格が一つの守護霊としてまとまって形作られるのでしょうか。そう考えると、怒る時もあれば泣く時もある我々人間の多面的な性格をよく表す事ができると思いましたし、いずれにせよ面白い考えだと思いました。
日常を精霊と共に過ごす
アイヌのカムイというものについて考えた時、それは神のような存在なのか、と思ったのですが、著者によると、カムイは神ともまた違う存在なのだそうです。神と言うと天上世界に住む別世界の存在ですが、カムイは、人間世界に共存するより身近な存在であり、その辺を歩いている猫も、犬も、スズメも、カラスも、木も草もみんなカムイで、人間はカムイに取り囲まれて暮らしているのだ、と著者は言います。
カムイは神とは異なると述べられていましたが、この思想を取り入れ、私達は、神のような存在(精霊?)と一緒に暮らしているとイメージすると、日常生活がより神秘的で豊かになるのではないか、と思いました。
著者は、カムイを「環境」という言葉で説明していますが、上記のように自分を取り巻く環境を神秘的な存在として捉えると、日常生活を異なった視点から見る事ができるようになるのではないか、と思います。
精霊と暮らす日々というと、物語の世界のようで面白いのですが、アイヌのカムイ思想を取り入れると、実際に物事に宿る霊的な要素を見る目が見開かれ、精霊と暮らす日々を送る事ができるようになるのではないか、と思いました。
カムイから想像する天国の形
アイヌのカムイ思想の中でも面白い要素として、天界にはカムイを入れる袋が存在する、というものがあります。例えば、シカは、天界にシカを降ろすカムイがいて、その袋の中にシカの尻尾や角やらを蓄えているそうです。それを地上にばらまくと、その尻尾や角が一頭一頭のシカになるそうです。このシカを降ろすカムイの正体ははっきりとしていないのですが、天界にいる事やその他の理由から、何らかの鳥のような存在だろう、と考えられています。
天国にいる人が、人間界に降りてくるというイメージは、なんとなく想像がつくのですが、それがシカのカムイについても当てはまるというと、面白い部分があるな、と思います。それぞれの生物や物事にそれぞれの天国があり、そこからそれらが降りてくると言うと、この世とは別に、様々な精霊(カムイ)が住む世界があり、そことこの世がつながっているという思想にも発展していきそうです。
このように、アイヌのカムイ思想から天国の姿を何となく想像する事ができて、その点面白い部分があるな、と思いました。
100分de名著 アイヌ神謡集 知里幸恵を読んでの感想やレビュー
個人的には、カムイというものの発想が面白くて、自分の身の回りが精霊のようなものに満たされていて、精霊と共に生活しているという事を考えると、普段の生活が神秘的で想像力豊かで、楽しくなるのではないか、と思いました。
例えば、私が大事に使っているシャープペンも、長年大事に使えばそれだけそこに思い入れが宿るのであり、それは、そこに想いという霊性が宿る土台となるのではないか、と思いました。
サンテグジュペリは、その著書「星の王子さま」で、5000本のバラよりも、一本の特別なバラを大切に世話する事の意味を教えてくれましたが、カムイの思想も、身近な物を大切にする事について、重要な示唆を与えてくれるのではないか、と思います。
このように、この本や、そこに描かれているアイヌの思想からは、得る物があると思いますし、一読の価値のある一冊だと思うので、未読の方で興味を持った方は、ぜひ読んでみてほしい、と思いました。
100分de名著 アイヌ神謡集 知里幸恵がおすすめでない人
こんな人はおすすめしない
- 難しい考えが苦手な人
- 暗示的な発想が苦手な人
- カムイについて既に知っている人
- 想像的な発想に特に興味を持てない人
- アイヌの歴史に興味のない人
まず、カムイという考え方は、非常に暗示的であり、ある意味難しい思想だと思います。そのような事もあり、難しい哲学には興味がない、という人には、おすすめできない本だと言えるかもしれません。
また、本書は、カムイとアイヌについて、その概要を述べた入門書のようなものであり、すでにカムイについて専門的な知識を持っている、という人には、得る物のない一冊になってしまうでしょう。しかし、著者独自のカムイについての説明や、アイヌである知里幸恵さんの語るアイヌ物語の解釈に興味のある人には、十分楽しめる内容となっています。
アイヌの歴史自体に興味がないという人もいるかもしれませんが、同じ日本に住んでいる民族の歴史を学ぶ事は、何かしら得る物があると思いますし、異なる生活様式と言語を持つ人々の事を知るのは、面白い部分もありますので、気になった方は、一度読んでみる事をおすすめします。
100分de名著 アイヌ神謡集 知里幸恵をおすすめしたい人
こんな人におすすめ
- アイヌの世界観に興味のある人
- 想像力豊かな世界観が好きな人
- アイヌという日本人について知りたい人
- カムイという思想に興味のある人
- アイヌの人々の考えに興味のある人
まず、アイヌ独自の思想であるカムイという考え方が面白いですし、想像力が豊かですごいと思います。普段から、面白いものに興味のある人、想像力豊かな物の見方に興味のある人には、カムイの存在は楽しむ事ができるのではないか、と思います。
また、アイヌという日本北部に住んでいた民族に興味のある人は、この本を読めばその概要を理解する事ができますし、アイヌの人々がどのような考えを持っていたのか、知る事ができます。
そのような意味において、本書は、楽しむ事ができると同時に、アイヌについて学べる事も多いのではないか、と思いました。
そのような事もあり、上記の5つのポイントに該当する人には、ぜひおすすめしたい一冊だと思いますし、期待を裏切る事のない完成度の高い一冊だと思います。